1 統計の重要ポイント ── 講義を貫く概念の背骨
この章は、講義(全13回)で扱った内容を、個々のトピックの寄せ集めとしてではなく、一本の筋でつながった一つの考え方として見渡すためのものです。 統計学には公式や手法がたくさん出てきます。けれども、その奥にあるアイデアは驚くほど少なく、しかも互いに深くつながっています。姉妹編の「公式の導き方」「確率分布のまとめ」が式の道具箱だとすれば、この章はそれらをどういう順番で・なぜ使うのかという地図です。
各ポイントは「なぜ重要か」「一言でいうと」「典型的な誤解」の3点セットで書いています。式は意味を補強するときだけ最小限に置きました。まず太字の主張を拾い読みし、気になったところを式まで降りていく、という読み方でかまいません。
0. 全体地図:13回はどうつながっているか
統計学の流れは、おおよそ次の一本の物語として読めます(図 1)。
この地図の中心に置かれているのが第5回「データ=モデル+誤差」です。記述統計も、推測も、回帰も、すべてこの一行の言い換えだと分かると、13回がばらばらの手法集ではなく一つの態度に見えてきます。まずここから始めます。
1. データ = モデル + 誤差(中心思想)
なぜ重要か:統計学のほぼすべての手法は、次のたった一行の上に立っています。
\textsf{データ} = \textsf{モデル} + \textsf{誤差}
- モデルとは「データをこう要約・予測する」というこちらが立てた約束です。いちばん単純なモデルは「全部を1つの数で代表する」、つまり平均です。
- 誤差とは、そのモデルでは説明しきれない残りのズレです。
データ分析とは、モデルを工夫して誤差をできるだけ小さく・意味のあるものにしていく作業にほかなりません。
| 回 | その回の「モデル」 | 「誤差」 |
|---|---|---|
| 2 | 平均(1つの数で代表) | 各データの平均からのズレ |
| 11 | 回帰直線 y=a+bx | 直線から外れる縦方向のズレ(残差) |
| 12 | 群ごとの平均(t検定・分散分析) | 群内のばらつき |
| 13 | 複数の変数を使った予測式 | それでも残る部分 |
一言でいうと:手法が変わっても、やっていることは「モデルを置いて、残った誤差を測る」だけ。第2回の平均と第11回の回帰は、同じ枠組みの単純な場合と複雑な場合の違いにすぎません。
典型的な誤解:「誤差=間違い・測定ミス」だと思ってしまうこと。ここでの誤差はモデルでは捉えない自然なばらつきを含み、消すべきものではなく理解すべきものです。誤差をゼロにしようと変数を足しすぎると、後で出てくる過学習(オーバーフィッティング)(13回)に陥ります。
2. 母集団と標本、母数と統計量 ── 推測の構図
なぜ重要か:われわれが本当に知りたいのは、たいてい手元のデータそのものではなく、その背後にある全体(母集団)です。日本人全体の平均身長を知りたいが、測れるのは数百人(標本)だけ、という状況です。
- 母集団:知りたい対象の全体。その特徴を表す数値が母数(パラメータ)で、たとえば母平均 \mu・母分散 \sigma^2。これは定数だが、ふつう未知。
- 標本:実際に手に入れた一部のデータ。そこから計算する数値が統計量で、標本平均 \bar{X}・標本分散 S^2 など。これは標本ごとに変わる量なので、確率変数として大文字で書きます(観測された具体的な値は小文字 \bar{x},\ s^2)。
推測統計とは、観測できる統計量を手がかりに、観測できない母数を推し量る営みです。この一方向の矢印 ― 母数(未知の定数)→ 標本 → 統計量(既知だが揺れる) ― が、第6回以降すべての土台になります。
一言でいうと:統計量は母数の「影」。影(標本平均)を見て本体(母平均)を当てにいく。
典型的な誤解:標本平均 \bar{X} と母平均 \mu を混同すること。\bar{X} は計算できるが標本ごとにブレる量、\mu は1つに定まっているが直接は見えない量。両者の橋渡しをするのが次の標本分布です。
3. 記述統計の3本柱:中心・ばらつき・形
データを要約するとき、見るべきは大きく3つです(第2回)。
中心(代表値)── 平均と中央値
- 平均 \bar{x}=\frac1n\sum x_i:全データを反映するが、外れ値に弱い。
- 中央値:順番に並べた真ん中。外れ値に強い。
両者は無関係ではなく、第5回の視点で統一されます。平均は「誤差の2乗和」を最小にする代表値、中央値は「誤差の絶対値の和」を最小にする代表値です。つまり「どんな誤差を小さくしたいか」で代表値が決まる ― これも「データ=モデル+誤差」の現れです。
ばらつき(散布度)── 分散・標準偏差・なぜ n−1
- 分散 = 平均からのズレの2乗の平均。標準偏差 = その平方根で、元のデータと単位がそろう。
- なぜ n-1 で割るのか:標本から母分散を推定するとき、ズレを測る基準に真の母平均 \mu ではなく手元の標本平均 \bar{x} を使う。\bar{x} はそのデータについて2乗和を最小にする点なので、ばらつきが少なめに見積もられる。これを補正するため n より1小さい n-1 で割って少し大きくする(自由度の調整)。
- R の
var()は不偏分散(n-1版)、sd()はその平方根を返します。導出は「公式の導き方」第8節。
- R の
形 ── 分布の歪み
- 左右対称か、片側に長い裾を引く(歪度・ロングテール)か。年収や都市人口のように右に長い裾を引く分布では、平均が中央値より大きくなり、平均だけ見ると実態を見誤る。
一言でいうと:中心・ばらつき・形の3点を見れば、データの「顔つき」がつかめる。1つの数(平均)だけで語らないこと。
典型的な誤解:「平均を見れば十分」。同じ平均でも、ばらつきや形がまるで違うデータはいくらでもあります。可視化(ヒストグラム・箱ひげ図)で形を必ず確かめる、というのが第2回の教訓です。
4. 確率という言語 ── 2つの見方、条件付き確率、独立
推測統計は「不確実さ」を扱うので、その言語である確率が必要です(第3・4回)。
確率の2つの見方
- 頻度主義:確率とは「同じことを無限に繰り返したときの相対頻度」。コインの表が出る確率0.5とは「投げ続ければ表が半分」という意味。客観的だが、「1回きりの出来事」には当てはめにくい。
- ベイズ主義:確率とは「ある主張に対する確信の度合い」。データを見て確信を更新していく。1回きりの出来事や未知のパラメータにも確率を与えられる。
この対立は第8〜9回(頻度主義の検定)と第10回(ベイズ)で再び主役になります。同じデータでも立場が違えば答えの意味が変わる ― これは欠陥ではなく、確率という概念がそもそも一つではないことの反映です。
条件付き確率と独立
- 条件付き確率 P(A\mid B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)}:「B が起きたと分かったうえでの A の確率」。情報が増えると確率は更新される、という発想の出発点で、ベイズの定理(第10回)に直結します。
- 独立:P(A\cap B)=P(A)P(B)、同じことだが P(A\mid B)=P(A)。B を知っても A の見込みが変わらないこと。後の「独立な和の分散は足せる」(標準誤差の導出)や「並べ替え検定の前提」で効いてきます。
一言でいうと:条件付き確率は「情報で確率を上書きする」操作、独立は「上書きしても変わらない」関係。
典型的な誤解:P(A\mid B) と P(B\mid A) を取り違える「検察官の誤謬」。「病気なら陽性になる確率」と「陽性だったとき病気である確率」はまったく別物。両者を結ぶのがベイズの定理です(ポイント10)。
5. 確率変数・期待値・分散・正規分布・標準化
なぜ重要か:データを「確率的に生まれる数」として扱う道具立てです(第4回)。
- 確率変数:偶然で値が決まる変数。サイコロの目、ランダムに選んだ1人の身長など。
- 期待値 E[X]:その変数の「平均的な値」(値 × 確率を全部足す)。
- 分散 \text{Var}(X):期待値まわりのばらつき。
- 期待値の線形性 E[aX+b]=aE[X]+b:最も使う性質で、二項分布の E[X]=np も標準誤差も、すべてここから出る(「公式の導き方」第1・3〜5節)。
正規分布と標準化(Z スコア)
- 正規分布:左右対称の釣鐘型。たくさんの独立な量を足す・平均すると現れる(理由はポイント6の中心極限定理)。だから自然界・社会のあちこちに登場する。
- 標準化 Z=\dfrac{X-\mu}{\sigma}:平均を引いて標準偏差で割ると、平均0・標準偏差1にそろう。単位や尺度の違う量を共通のものさしで比べられるようになる。
- 68\text{–}95\text{–}99.7 ルール:正規分布では \mu\pm1\sigma に約68%、\mu\pm2\sigma に約95%。検定や信頼区間で出てくる 1.96 はここから来ています。
一言でいうと:標準化は「ものさしの統一」。Z スコアにすれば身長と試験点数すら同じ土俵で比べられる。
典型的な誤解:「どんなデータも正規分布する」。そうではなく、たくさん足し合わせた量が正規分布に近づくのです(次のポイント)。生データ自体は歪んでいることも多い。
6. 標本分布と中心極限定理 ── 推測を可能にするエンジン
なぜ重要か:これが推測統計全体の心臓部です(第6回)。第8〜10回の検定・信頼区間・ベイズは、すべてここを土台に立っています。
- 標本分布:標本平均 \bar{X} は標本ごとに違う値をとる ― つまり \bar{X} 自身が一つの確率変数で、分布を持つ。これが標本分布。「統計量も揺れる」(ポイント2)を具体的に表したもの。
- 標準誤差 \text{SEM}=\dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}:標本平均のばらつきの大きさ。n を大きくすると小さくなる。ただし \sqrt{n} なので、精度を2倍にするには標本を4倍必要。
- 中心極限定理(CLT):元のデータがどんな形でも、標本平均の分布は n が大きくなると正規分布に近づく。
なぜこれが「エンジン」なのか。母集団の形が分からなくても、標本平均は(n が十分大きければ)正規分布として扱える。だから「\bar{x} が母平均からどれだけ離れているか」を正規分布の確率で評価でき、検定も信頼区間も計算できる。CLT がなければ、推測のほとんどは成り立ちません。
つながりの要: \textsf{中心極限定理} \longrightarrow \textsf{検定統計量}\ z=\frac{\bar{x}-\mu_0}{\text{SEM}} \longrightarrow \textsf{仮説検定・信頼区間(8)・検出力(9)}
一言でいうと:個々はバラバラでも、平均すれば正規分布になる。これが「平均」という要約がこれほど信頼される理由。
典型的な誤解:「CLT は元のデータを正規分布にする」のではなく、「標本平均の分布を正規分布にする」。また「n が大きければばらつきが消える」のではなく、ばらつきの中心(母平均)に近づくのが大数の法則、ばらつきの形が正規になるのが CLT。
7. リサンプリング ── 数式の近似を「計算」で置き換える
なぜ重要か:第6回までの結果(SEM、正規近似)は数式による近似でした。第7回は、コンピュータの反復計算で同じことを直接シミュレートしてしまうという発想の転換です。
- ブートストラップ:手元の標本から復元抽出で何度も再標本を作り、そのたびに統計量を計算する。こうして作った分布が標本分布の代わりになり、標準誤差や信頼区間が数式なしで得られる。
- 並べ替え検定(ランダム化検定):2群のラベルをランダムに何度も入れ替えて、「もし群に差がなければ(=ラベルがどうでもよければ)どんな差が偶然生じるか」を直接作り、実際の差がそのどのあたりに来るかを見る。
両者に共通するのは、「仮定(正規分布など)に頼る代わりに、データを再利用して必要な分布を作ってしまう」という考え方です。式が解けない複雑な統計量でも適用できるのが強み。
一言でいうと:紙とペンで近似していたものを、PC に何千回も実行させて直接見る。CLT と検定の「裏道」。
典型的な誤解:「ブートストラップは魔法でデータを増やす」のではない。情報量は元の標本のまま。あくまで手元のデータが母集団を代表しているという前提のもとで、ばらつきを評価しているだけ。
8. 仮説検定の論理 ── 帰無仮説・p値・2種類の誤り
なぜ重要か:科学で最も広く使われ、同時に最も誤解されている枠組みです(第8回)。
論理は背理法に似ています。 1. 帰無仮説 H_0 を立てる(例:「差はない」「効果はない」)。 2. 「もし H_0 が正しいなら、観測データはどれくらい起こりにくいか」を計算する。これが p値。 3. p値が小さければ「H_0 のもとでは珍しすぎる」として H_0 を棄却する。
p値の正しい意味:帰無仮説が正しいと仮定したとき、観測された結果以上に極端な結果が得られる確率。
2種類の誤り:
| H_0 は本当は正しい | H_0 は本当は誤り | |
|---|---|---|
| H_0 を棄却した | 第1種の誤り(あわてんぼう、確率 \alpha) | 正しい判断 |
| H_0 を棄却しない | 正しい判断 | 第2種の誤り(見逃し、確率 \beta) |
検出力(ポイント9)は「本当に差があるとき、ちゃんと差を見つけられる確率」 =1-\beta です。
信頼区間 ── 「有意かどうか」を区間で表す:検定が「ある1点 \mu_0 を棄却するか」を問うのに対し、信頼区間は 棄却されない値をぜんぶ集めた範囲 を示します。正規近似のもとで 95%信頼区間 =\bar{x}\pm1.96\,\text{SEM}(母標準偏差が未知で標本が小さいときは 1.96 を t 分布の臨界値に置き換える)。差や効果量のように帰無値が0の量では、区間が0を含むかどうかが検定の結論とほぼ対応 します。点ではなく 幅 で答えるので、「有意か否か」に加えて「推定の精度」まで一目で伝わるのが利点です。
典型的な誤解:信頼区間を「母平均が95%の確率でこの区間に入る」と読むこと。母平均は定数で動かない。正しくは「同じ手続きを繰り返せば、作られる区間の95%が母平均を含む」 ― ランダムなのは母平均ではなく区間のほう。
一言でいうと:「偶然だけでこんな結果が出るのは珍しいか?」を確率で測る。
典型的な誤解(とても重要): - p値は「帰無仮説が正しい確率」ではない。p値は H_0 を仮定したうえでのデータの珍しさであって、H_0 自体の確率ではない。これを知りたいならベイズ(ポイント10)が必要。 - 「p > 0.05 だから効果はない」は誤り。有意でない=差がないことの証明ではない(見逃しかもしれない)。 - p値は効果の大きさを表さない。n が巨大なら、ごく小さな差でも有意になる。だから次のポイントが要る。
9. 効果量・検出力・サンプルサイズ設計 ── 「有意かどうか」を超えて
なぜ重要か:p値だけでは「差があるか/ないか」のYes/Noしか分からない。どれだけ大きい差か、そしてその差をちゃんと捉えられる研究になっているかを語るのが第9回です。
- 効果量(例:Cohen’s d):差の大きさを標準偏差を単位として表す。p値と違い標本サイズに左右されにくい。「統計的に有意」と「実質的に重要」は別物だ、という戒め。
- 検出力:本当に効果があるとき、それを有意と検出できる確率 1-\beta。検出力の低い研究は、たとえ有意でも信用しにくく、再現もしにくい。
サンプルサイズ設計 ── 4つの要素の関係
検出力をめぐっては、次の 4つの要素 が独立ではなく、3つを決めれば残りの1つが自動的に決まる という関係で結ばれています。これを利用して研究を設計します。
| 要素 | 意味 | ふつうの扱い |
|---|---|---|
| 効果量 d | 見つけたい差の大きさ | 過去研究などから見積もる |
| \alpha | 有意水準(第1種の誤り) | 0.05 に固定 |
| 1-\beta | 検出力(見逃さない確率) | 0.80 を目標に固定 |
| n | 標本サイズ | これを逆算して決める |
研究計画では普通、\alpha=0.05 と検出力 1-\beta=0.80 を先に決め、期待される効果量 d を見積もったうえで、必要な標本サイズ n を逆算します。「期待した効果量が本当にあったとき、それを有意にできるだけの n を、データを取る前にあらかじめ用意しておく」 ― これがサンプルサイズ設計です(Rでは power.t.test() などで計算できる)。直感的には、効果量 d が小さいほど、検出力を高く望むほど、必要な n は大きくなります(n はおよそ 1/d^2 で増える)。
注意:標本は大きすぎてもいけない
ここに大事な落とし穴があります。検定統計量は z=\dfrac{\bar x-\mu_0}{\sigma/\sqrt n} のように \sqrt n に比例して大きく なります。つまり n を増やしさえすれば、どんなに小さな差でも有意にできてしまうのです。
- n が 小さすぎる と、本当にある効果も見逃す(検出力不足)。
- n が 大きすぎる と、実質的に無意味なほど小さな効果まで「統計的に有意」になり、p値が独り歩きする。
だからサンプルサイズ設計のねらいは「とにかく大きく」ではなく、見つける価値のある効果量を、ちょうど検出できるだけの n に合わせる ことです。そして結果が有意になったら必ず 効果量と信頼区間(ポイント8)を併記 し、「有意か」と「実質的に意味があるほど大きいか」を分けて読む ― これがポイント8とあわせた結論です。なお、\alpha=0.05 という水準は自然界の境界ではなく約束事にすぎません。「有意か否か」の二分で終わらせず、効果量と信頼区間で連続的に語る ― これが現代の標準的な作法です。
一言でいうと:「有意」かどうかより、「どれくらい大きく、どれだけ確かに、そして適切な n で測れているか」を見る。
10. ベイズの考え方 ── 事前 → データ → 事後
なぜ重要か:頻度主義(8〜9回)とは別の確率観から推測を組み立てる枠組みです(第10回)。ポイント8で「知りたかったのに頻度主義では答えられない」とした「仮説が正しい確率」に、ベイズは正面から答えます。
中心はベイズの定理です。 \underbrace{P(\textsf{仮説}\mid\textsf{データ})}_{\textsf{事後}}=\frac{\overbrace{P(\textsf{データ}\mid\textsf{仮説})}^{\textsf{尤度}}\ \overbrace{P(\textsf{仮説})}^{\textsf{事前}}}{P(\textsf{データ})}
- 事前分布:データを見る前の確信。
- 尤度:その仮説のもとでデータがどれだけ起こりやすいか。
- 事後分布:データを見た後の更新された確信。
学習とは「事前にデータの証拠を掛け合わせて事後に更新する」こと。今日の事後は明日の事前になり、データが増えるほど確信が研がれていきます。
| 頻度主義(8〜9回) | ベイズ(10回) | |
|---|---|---|
| 確率とは | 長期的な相対頻度 | 確信の度合い |
| パラメータ | 未知の定数 | 確率分布を持つ |
| 答えるもの | p値・信頼区間 | 事後分布・信用区間 |
| 区間の意味 | 手続きの95%が母数を含む | 母数が95%の確率でこの区間に入る(直感どおり!) |
一言でいうと:確信を数値にして、データで更新していく。検査の的中率(ポイント4の検察官の誤謬)が直感とずれる理由も、ベイズが説明する。
典型的な誤解:「ベイズと頻度主義はどちらかが正しい」。そうではなく、問いの立て方が違う。事前分布が結論に与える影響を意識すれば、両者は補い合う道具です。
11. 関係のモデリング ── 相関と回帰、そして相関≠因果
なぜ重要か:1つの変数の要約(〜10回)から、2つ以上の変数の関係へ進みます(第11回)。「データ=モデル+誤差」のモデルが、定数(平均)から直線へ格上げされる回です。
- 相関係数 r:2変数が一緒に動く度合い。-1\le r\le1 で、符号が向き、絶対値が強さ。
- 回帰直線 y=a+bx:x から y を予測する直線。傾き b は最小二乗(誤差2乗和の最小化)で決まる ― 平均を求めたのと同じ原理(「公式の導き方」第6・11節)。
相関 ≠ 因果(この回の核心)
2つが相関していても、片方がもう片方の原因とは限らない。考えられるのは、 1. X \to Y(本当に原因)、2. Y \to X(逆向き)、3. 第3の変数 Z が両方の共通原因(交絡)、4. 偶然。
典型例:アイスクリームの売上と水難事故は相関するが、原因は両方を押し上げる「気温」という交絡変数。気温で層別すれば見かけの相関は消える(層別すると関係の向きが変わって見えるシンプソンのパラドックスも、交絡が生む同類の現象です)。
因果を本当に主張するには、ランダム化比較試験(RCT) のようにこちらが介入して操作する必要がある。観察データだけからは、交絡を完全には排除できない。それでも、交絡を正しく選んで調整すれば、観察データから因果効果に迫ることはできます ― その方法が第5章「因果推論の初歩」の主題です。
一言でいうと:一緒に動くことと、一方が他方を動かすことは別物。相関は出発点であって結論ではない。
典型的な誤解:r=0 を「無関係」と読むこと。r は直線的な関係しか測らない。U字型のようなきれいな曲線関係でも r\approx0 になりうる。散布図を必ず見ること。
12. 線形モデル(LM) ── ばらばらの手法を1つの枠に
なぜ重要か:t検定・分散分析・回帰 ― 別々の名前で習う手法が、実は同じ一つのモデルの特殊な場合だと明かされる回です(第12回)。13回を通じて積み上げてきた「データ=モデル+誤差」が、ここで統一的な姿に結晶します。
線形モデル(LM)の骨格は、結局すべて
\textsf{結果} = (\textsf{説明変数で作った予測}) + \textsf{誤差}
の形です。違うのは説明変数の種類だけ。
| 手法 | 説明変数 | 線形モデルでの見え方 |
|---|---|---|
| 1標本t検定 | なし(定数のみ) | 切片だけのモデル |
| 2標本t検定 | 2値(群A/群B) | ダミー変数1つの回帰 |
| 分散分析(ANOVA) | カテゴリ(3群以上) | ダミー変数複数の回帰 |
| 単回帰 | 連続変数1つ | y=a+bx |
| 重回帰 | 連続・カテゴリ複数 | y=a+b_1x_1+b_2x_2+\cdots |
カテゴリ変数(性別など)はダミー変数(0/1)で数式に入れる。こうすると「群の平均を比べる」検定が「回帰の傾き」として表せる。t検定で群差を見ることと、回帰で傾きを見ることは、同じ計算なのです。
一言でいうと:手法の名前は入口が違うだけ。中身は「予測+誤差」という一つのモデル。これを知ると、新しい手法も「あの枠の拡張だ」と見通せる。
典型的な誤解:t検定・分散分析・回帰を別々に暗記すべき三つの公式だと思うこと。実際は同じ枠の中で説明変数を取り替えているだけ。覚える量は思うより少ない。
13. 正しく使うために ── 再現可能性・多重比較・p-hacking
なぜ重要か:どんなに正しく計算しても、使い方を誤れば結論はゆがむ。第13回(と第1回の問題提起)は、統計を「道具」ではなく「責任を伴う実践」として締めくくります。
- 多重比較問題:たくさんの検定を同時に行うと、本当は差がなくても偶然どれかが有意になる。20回検定すれば、\alpha=0.05 でも平均1回は「偶然の有意」が出る。対策はボンフェローニ補正など、有意水準を厳しくすること。
- p-hacking / 疑わしい研究実践(QRPs):有意になるまでデータを追加したり、たくさん試した中から都合のよい結果だけ報告したりすること。これは多重比較を隠れて行っているのと同じで、偶然を実力と見せかけてしまう。
- 再現性の危機:上のような実践と検出力の低さが重なり、有名な研究の多くが追試で再現されなかった(再現性プロジェクト)。
- 対策:事前登録(分析計画を先に公開)、データ・コードの共有、追試の尊重。
これらは新しい話題に見えて、実は本章のポイント8〜9の裏返しです。p値の意味(8)を誤解し、検出力(9)を軽視すると、ここで失敗する。最後のポイントは、最初に戻ってくるわけです。
一言でいうと:統計は「やり方」だけでなく「使い方の誠実さ」まで含めて初めて意味を持つ。
典型的な誤解:「有意な結果が出た=発見」。一度きりの有意は、多重比較や p-hacking の産物かもしれない。再現されて初めて信頼できる、というのが現代の統計の到達点です。
まとめ:少数のアイデアがすべてを貫いている
13回をふり返ると、表面の手法は多彩でも、奥で働いているアイデアはごく少数だと分かります。
- データ = モデル + 誤差(1)── 平均も回帰もt検定も、すべてこの一行。モデルを置き、残った誤差を測る。
- 統計量は母数の影(2)── 観測できる標本から、観測できない母集団を推し量る。
- 標本分布と中心極限定理(6)── 「平均は正規分布になる」。これが推測(検定・区間・ベイズ)すべての土台。
- 誤差・ばらつきを正しく評価する(3, 7, 8, 9)── n−1、ブートストラップ、信頼区間、効果量・検出力は、いずれも「ばらつきをどう測り、どう伝えるか」の工夫。
- 確率には2つの見方がある(4, 8, 10)── 頻度主義とベイズ。同じデータでも問いの立て方で答えの意味が変わる。
- 使い方の誠実さ(11, 12, 13)── 相関≠因果、線形モデルという統一視点、多重比較・再現可能性。正しく計算するだけでは足りない。
公式を1つずつ暗記するのではなく、この6本の幹のどこに各手法がぶら下がっているかを地図として持つこと ― それが、統計学を「ばらばらの手続きの集まり」ではなく「一つの考え方」として理解した状態です。式の細部は「公式の導き方」「確率分布のまとめ」に戻って、いつでも自分の手で再現できるようにしておきましょう。